富大露文



カテゴリ:[ なんでもフリートーク ]


49件の内、新着の記事から10件ずつ表示します。


[50] (無題)

投稿者: 徳弘 投稿日:2016年 3月23日(水)04時39分47秒 61-26-221-48.rev.home.ne.jp  通報   返信・引用

私たちが母について、一番に思いつくこと、一番重要なことは、彼女の激しやすさだ。
「ヒステリーだな!」
かっとなった父は、母をそう呼んだ。
「ヒステリーより酷いね! 」
私たちの乳母は断定する。
母は、職場ではとても陽気で、明るく元気に誰かと会話することが出来た。もっとも、かなりわざとらしく、ぎこちない、媚びたように笑っていたし、全然いつも通りではなかったし、声も、普段より高い、胸から出るような感じだったが。母は忘れていなかったのだ。彼女の夫が地域の長に属する人間であり、故に彼女が、文化的に笑ったり、会話したりしなくてはならないことを。外での会話の際には、父のことも例外的に名字で呼んでいた。
彼女自身、もう地区労働ソユーズの下っ端という役柄ではなかった。会計係長に任命されていたし、商業大学の通信教育コースに入ることも提案されていた。家族会議では、父が最初に学ぶべきだと決まっていたので、母は、嘆きながらも提案を拒否したのだが。彼女は、自分がただの労働者ではなく、将来有望な労働者と見られていることを理解した。
外での愛想が瞳の内から消えないうちに、彼女は家に入り、敷居の上から尋ねた。
「父さんは居る? 」
すでに声は、普段の調子に戻り、幾分不機嫌になっている。
電話のある部屋へと、ずんずん歩き(ちなみにこの電話は、台所の壁に父が取り付けた特別性の棚の上に据えられていた)、彼女は怒気を含んだ声で受話器に向かって話し出した。「スチョーパ! 何考えてるの? 畝に水をやらないと駄目じゃない! 」
その場に居合わせた者は皆、静かに場から立ち去る。この際、朝の内、私と弟が咳をしていることを母が嘆き、かいがいしく謎の草から作った気持ち悪い煎剤を飲ませてくれたとして、そんなことは関係ない。もし今、誰かが偶然咳でもしようものなら、彼女は瞬時に、キレたことだろう。「ゴホゴホ言わないで、もうたくさん! 息を止めて」、と。
「私のシルクのガウンはどこ? 」
声が響く。私たちは、不幸の原因であるガウンが、一刻も早く母の目の前に現れてくれることを、自分のために祈るのだった。
彼女が張り出し玄関へ出て、好奇心旺盛な鶏と遭遇すると、鶏が空へ飛び立つようにと、足を踏み鳴らす。
「山みたい大きくなってしまえばいいのに! 」
母は鶏の背中に、大きな声をあげる。
ちょうど怒っている所に居合わせたもの全てに、彼女は惜しげなく、この魔術的、異教時代のものだとはっきり分かる呪文を、唱える。
頭が勝手に思い浮かべてしまう、星の高さまで成長した鶏や天にもとどく鍋、エルブルース山ほどの子ブタを。もしも、こんな時に、悪さや母と口げんかをするような不注意な人間がいた日には、彼女は極限の怒りに達する。
そんな時は、私と弟は戸外へと別々に逃げだす。もし、家の中なら、ホールにそびえ立つ大きな国有の机が私たちを助けてくれる。竜巻がホールに巻き起こり、私たちと興奮した笑いが机の周りで渦を巻く。そしたら、どんなに頑張っても母は私たちに追いつけない。
こんなこともあった。母は、弟の後を追い、机の周りに失敗で終わった円を何回か描いたのだが、台所へ飛び込んだかと思うと、そこから煤けた鍋つかみを持って帰ってきた。そして、それを投槍のように弟に投げつけたのだ。鍋つかみは弟に命中し、彼は床にぶっ倒れてしまった。
母は、泣きながら彼の胸に耳を押し付け、医者を呼ぶ。救急車が来るまでの間、彼女は弟を抱きしめ、彼を涙で濡らし、口づけをして、許してくれと祈り、最後に恥ずかしそうに付け加えた。
「あんた、お医者さんには、私がやったって言うんじゃないですよ! 」




[49] (無題)

投稿者: 徳弘 投稿日:2016年 3月21日(月)22時54分30秒 61-26-221-48.rev.home.ne.jp  通報   返信・引用

カザケの送別会、楽しかったですなぁ。

更新してないと、怒っているように思えるらしいので、
まぁ、気が向いた時に少しずつ、書いておくよ。
気になるところがあれば、聞いてください。

白い靴は、専門学校の終わったアントニーナを居住区の地区労働ソユーズへと運んでいく。そこには新しいプランナーが机に座っている。その机には卓上計算機が置いてある。アントニーナは計算機を見て、思い出す。村で水を汲みに二本の腕で井戸へと走ったこと、重くて不安定なバケツを上まで引き上げるために、つるつるすべる柄を力の限り回したことを。計算機のおもちゃのような柄を回していると、鋼鉄の深淵から明快な数字を引き出すのが、とても楽になる。
「さぁ、これからはわたし抜きで水を汲むことね! 」
やさしさと非難を込めて、サシコフカ村へ残してきた弟と母を思い出していた。
初めての給料で彼女はキラキラの、しわ一つない青い靴を買った。鼓膜が壊れそうになるくらいの厳寒の中でさえ、彼女はゴム引きを付けたその靴を履いて、農村消費組合へ行くのだが、そこへは馬でないとたどり着けないような場所なのだ。凍えた足をそりに敷かれた壊れやすい干し草に突っ込む時、彼女は思う。いつか足が凍ってしまって、切断しなくちゃいけなくなるだろうな、と。けれど、田舎のモノに包まれた女店員の中にいると、女たちが自分の靴に見とれる視線を堪能できた。まるで自分がおとぎの国から来た来賓のように見えていると、感じもした。
サシコフカからさほど遠くない街道沿いの村に住む代母がいたのだが、その代母が手紙を送ってきた。立派な若者を見つけたから、写真を送っておくれアントニーナ、とのことだった。アントニーナは写真を送ったのだけど、決まり悪かったので、裏にこんなことを書いていた。これは代母さんへ記念にあげるだけです。さて、代母からきた次の手紙には、故郷へ帰る時には、こっちに寄ってください、というものだった。そこでアントニーナは、大きな白樺の下にある家に行き、亜麻色の髪と、膝にアコーディオンを抱えた青い瞳のステパンと出会ったのだ。


秋になると、スチョーパと彼の厳格な親父さんがサシコフカにいる嫁となる女のところに乗り込んできた。アントニーナは、彼らと門で対面した。口ひげを生やした親父さんは、ラシャ地で直角なつばのついた軍事帽の中から、彼女を頭の先から靴まで眺め回し、不満そうにぶつぶつとつぶやいていた。『へっ、簿記係の女ってやつがどれほどのもんか、みてやらぁ……』その後、荷馬車から横っ腹のデカい巨大な酒瓶を取り出し、アントニーナの杯に並々とそそぎ入れた。彼女は人生で、最初で最後、決然と、止まることなしに、底まで飲みきり、頭をのけぞらせた。怒り狂った未来の義父の代わりに、銀色の9月の空を見たかったのだ。
空も彼女と共にのけぞったらしい。背後にあるスモモの木の下へと、空は消え去っていた。その日、彼女が見たものは、それで終わりだ。覚えているのはただ、引き裂かれこと、彼女がでこぼこの柵にしがみつき、色あせた無関心な草に身を屈め、急に地面に焦げて小さくなったマッチが落ちていることに気づいたこと、緑灰色の虫が不安げに揺れる草の茎を這っていること、彼らの頭上で気絶しかけの花嫁が倒れかけ、もはやその巨大な身体は姿勢を正すことはないことなどとは、ちっとも疑っていないことなどだった。彼女は彼女を支え、どこか頭上高くで笑っているスチョーパを押しのけたかと思うと、絶望にかられて、彼の無力な指を掴み、苦しげに舌に残る若干の言葉をとりとめもなく繰り返すのだった。「ああ、ステパンチカ、死んじゃう…… ああ、マッチ、助けて…… ああ、虫が、私を助けて…」



[48] (無題)

投稿者: 徳弘 投稿日:2015年12月20日(日)23時04分41秒 61-26-221-48.rev.home.ne.jp  通報   返信・引用

маткаについて、母親の母親か、カザケの母親か明確にした方がいい。

今度会った時に聞こう。

戦争が終わった初めての夏のことだ、母はコルホーズで取れた稲穂を裾に入れて運んでいた。彼女は、手袋を編むために二年の間、出稼ぎに連れていかれたのだ。アントニーナの9-10年生は、がたがたと音のする鉄道駅で終わりを迎えたのだ。おばさんのところに住むことになったのだが、腹を空かせることになった。家畜のブタにバケツに入ったスープを運ぶ時に、彼女は納屋でバケツからジャガイモやパンのかけらを取るのだった。
母は帰宅すると、アントニーナは町の簿記専門学校へ入学したいと言った。母は最初、死んでやると喚き立て、決して彼女に許しを与えなかった。刑務所のスラングでもって罵り、アントニーナを永遠に呪うと誓うのだった。ほとんど7月も終わろうかという時期になってからだ、母親は、しまいに穴倉を掘るように命じた。もし、この仕事を8月までにこの仕事を終わらせることが出来なければ、どこへも行かせないという約束をしたのだ。息子には娘を助けないようにと言い含めた。
雨の中、穴の中に頭と手が隠れてしまうまで、アントニーナはバケツで黄色い粘土質の穴を掘った。板を伝って、彼女は広大で風のある世界へ這い出た。そして勇ましく大学に入学したのだった。
「ソ連における昨年度の穀類収穫量はいくらですか? 」
試験の時のこと、聞かれた彼女は
「正確には見たことないけど、多いってことは知ってますよ! 」
拝み倒すようにしゃべり倒したのだった。
簿記帳簿記載術はエヴァ・ペトローヴナが教授していた。彼女はほとんど毎日違うズボンをはいていた。天上の香りを染み渡らせ、絹の縁に金時計の持つ虹の光を隠し、彼女はひらひらと教室に舞い降りた。まるで奇跡のように多彩な羽、いつかアントニーナが村にいた頃、暗い、荒くひびのいった風呂の敷居で見つけたあの羽のように。
アントニーナは、ゴム靴をはいて町へ通っていたのだが、とうとう、いくらかの金がたまると、他の学生たちと同じように、ゴム引きのズック靴を買った。その靴を毎晩水で洗い、歯磨き粉で気前よく磨き上げた。朝の通行人たちは、きっと女子寮の開け放たれた窓に白いハトが窓敷居に並んでいるように見えたに違いない。もっとも、それはズック靴だったわけだが。



[47] (無題)

投稿者: 徳弘 投稿日:2015年12月 5日(土)22時15分16秒 61-26-221-48.rev.home.ne.jp  通報   返信・引用

今週から、母の章だよ。

カザケの最後の授業ってさ、考えてみたら試験だよね。
でも、退官記念授業とか企画無いんかね。
そういえば、テニス合宿の時、無いって言ってたような気がするね。
しょうがないね、日本人は。自分では動かないもんね。いや、自分もだけど、さ。
ちょっと、月曜日に中沢先生にでも聞いてみようかね。

そしたら、みんなには嫌でも協力してもらうがね。
その時は、ヨロシクだよ。

そうなったら、連絡するよ。
土曜とかがいいね。
働いてるやつも来れるし。

ま、難しいかもしれんけど。

母は言う。戦争は、村の放牧場にドイツ人の飛行機が着陸した時から始まったのだ、と。最初に飛行機に近付いたのは子供と若者達だった。革ジャンパーを着た二人のドイツ人が、誰にも注意を向けず、飛行機の機首を開きモーターをいじっていた。その後、農場の人間とアダムおじちゃんがきれいなタオルとご馳走を持ってやってきた。古いやり方にのっとって草の辺りまでお辞儀をすると、おじちゃんはここではゲルマニアの軍隊をいつでも歓迎するし、神が軍に健康を与えられるようにと言った。
一人のパイロットは丸型パンとタオルを取り、もう一人はアダムおじさんを突き押して、自分たちはドイツ共産党員だと叫んだ。パイロット達が狭いコックピットに入り込むと、周りにいる全員の髪の毛が逆立つような風をプロペラで起こし、助走をつけてサシコフカを四方から取り巻く青い森の向こうへと消えていった。
再びドイツ人が現れたのは秋のことで、四輪馬車を使っていた。村に行き着くには四輪馬車か、飛行機に乗ってくるしかなかったのだ。それからは、彼らが好奇の目にさらされることはなくなった。彼女の父親は、集会で組合長になってくれと言われていた。そして、冬の夜、まさに新年の日に扉がノックされたのだ。
母さんは寝床から起き、家へと何人かの人を入れた。親父も起き上がった。アントニーナは弟と一緒に暖かいペチカの上で寝ていた。彼女が眠たい頭を管のすき間から出した時、台所ではランプの明かりで、天井に光が瞬き始めていた。
見知らぬ彼らは、全員黒づくめの雪まみれで、敷居の正面から父親と対峙していた。彼らの一人は、巨人のような身長で、いくらか他よりも肩幅も広かった。彼は銃を肩から外すと、突然、炎と轟音と共に、父親に向けてまっすぐに発砲したのだ。父親は、倒れて、動かなくなった。その時、アントニーナの額と瞳に何か柔らかくて、気持ちの悪いものがはねた。
「おお、娘や。こりゃ、お父さんの脳味噌じゃないか! 」
客人が去った後、アントニーナの顔を洗いながら、母親は泣いたのだった。
家の周りにある雪だまりには、足跡の一つも見つからなかった。まるで夜中に誰も訪れなかったかのように。代わりに隣人たちの間では色々と憶測が飛び交った。ある者は警察が来たのだと言った。他の人は森の中でパルチザンに首を縦に振り、また他の者は、未知の脱走兵を思い出していた。だが、誰がどういうわけで親父を殺したのかは、誰も、決してわかりはしなかった。



[46] (無題)

投稿者: 徳弘 投稿日:2015年11月30日(月)00時44分2秒 61-26-221-48.rev.home.ne.jp  通報   返信・引用

これで、父の章はおしまい。

来週からは、いけたら、母の章に行こうかね。その次は、乳母の章。
みんな頑張って付いて来て。

カザケの最後の授業とか聞きに行けたらいいなぁ。それで、色々質問しときたいわ。
何時なのか、聞いとこうかなぁ。

着々と父は、記憶に残るものを作っていった。例えば、小さな低いベンチ、それはゾウと名付けられ、キノコの焚きつけやジャガイモの手入れとか、その他さまざまな時に座る用に作られた。もしくは、五段の幅の広い階段、これはペチカに登る用。そして、重くどっしりとした腰掛。重い四つの凝った支えが下に付いた、一本足の丸い机。
大胆になった彼は、今度は、大きくない壁にかかる戸棚を作り、次に、書物棚を作った。上半分は二つのガラス扉で閉まり、下半分は、もっと容積が大きくなっていて、二つの木の扉が付いているのだ。ついには、長い間がかかって、沈思、測量、口笛、好きな歌が幾度か静かに歌われて、食器棚が作られた。棚には、ガラスの戸の他に、上部に色々な飾りがあって、インディアンの頭の羽飾りに似た、彫り物飾りがあった。
ゾウと階段は台所に行き、本棚はホールに入った。緑色に塗られた腰掛とうす茶色の光沢の光る食器棚は食堂に住み着いた。丸い机は両親の寝室に。同様に壁掛け棚もそこに置かれた。彼はすぐに薬箱と名付けられ、その中に何らかの粉末が入った袋が突っ込まれた。
弟の、そして私の目線から見ても、私たちの家の内部はもう少し高価で素晴らしい財産で満たされたようだった。
最後の作品として、父はいきよいよくムクドリの巣箱を接合し、物置の屋根の棟木に取り付けたのだった。ある朝、なぜ先に庭で使うオーバーシューズを脱がないのかという母の叫びも聞かず、父は私たちの部屋に入ってきて、私と弟を引っ張って玄関まで連れ出した。
「すぐ見てくれ…… すぐだから! 」
父がこんな風に思わせぶりに言ったから、母も興味を惹かれて、赤々と燃える暖炉から離れると、私たちについて来た。
玄関の階段を旋回していた二羽の鳥が、ムクドリの巣箱に止まって鳴いていた。
たぶん、誰にも、父を含めて誰にも、この時は思いもよらなかったろう。指物業の熱意や、削り屑や金属、鳥の糞や時計のボイル油の匂いのするもの、庭で行われた全てのことは、どこかに隠れたいという奇妙な願いの最初の兆候だっただけかもしれない。



[45] (無題)

投稿者: 徳弘 投稿日:2015年11月22日(日)23時32分58秒 61-26-221-48.rev.home.ne.jp  通報   返信・引用

群像社の「戦争は女の顔をしていない」とか出版停止らしいけど、今買っておいたらプレミアム付くんかね。
まぁ、読むだけなら図書館行けばいいんだろうけど。

一人出版社とか、いいなって思う今日この頃だよ。

まぁ、今は、自分に出来ることをしていかなきゃね。

あ、小林君とか、感想だけでもいいから、投稿してな。見てないかもしれないけど。

そして、祖父は解決策を見つけた。木材から小さなクマと狼を作り始めた。人形は足が動く仕掛けになっていた。捕虜達が町へ連れて行かれ、通りからレンガの欠片を取り除き、前夜のアメリカ人の空襲で出来た弾痕を塞いでいた時、祖父は子供連れのドイツ人女性におもちゃの動物を売り出した。ドイツ人女性達はマルクやパン、食糧配給券で人形を買った。祖父は報酬をすぐにタバコに換えていった。
「けど、ある時、親父の奴、騙されてな」
父はからかい気味に笑った。
「おもちゃは売れたんだが、親父の所には良い薪がまだ一抱えは残っていた。あおのうえ、『こっち、こっち! 私たちのところに来てよ! 』って、呼ぶ声があってな。 親父はドイツ人のところに薪を運んでいった、呻きながら考えただろうよ、そう、例えば、今日はタバコが大漁だ、とか…… けど、そいつらは自分の家の近くに来ると、薪を引っつかんで、大笑いしたんだ。『私達のところには一マルクも一枚の配給券だってありゃしないよ…… 私たちはジプシーさ!』ってな! 」
頑丈な故郷の物置で、世にも不思議な、遠くのドイツ、シュテッティンの町の収容所で起きた父の冒険譚を聞くのは楽しかった。その収容所は、ドイツ人たちから、あるいは真面目に、あるいは嘲笑を込めて、カザケンベルグと呼ばれていた。物置には、まったくもって小さな窓が一つ有るっきりだった。窓の外側には、暗青色の冬の闇が作る長方形がくっついていた。その長方形の何キロにもわたる深層には、おもちゃの様なシュテッティンの町が隠れていた。街の上空には、小さなアメリカ製の飛行機が宙を描き、スウェーデンカブとキャベツが植えられている畑を、人形のすむような小さな家を、たっぷりタバコを吸うことを夢見る私たちの若き陽気な父とそのオヤジを、爆弾のしずくで濡らしていた。
冬になっても、物置小屋の中は少しも寒くなかった。小屋の中は壁やランプ、鶏と雄鶏、私たちの息で暖められていたし、外は厚く高い雪だまり要塞が安全に覆っていた。庭に面した板戸を少し開け、刺すような寒気を吸い込み、どこからやってくるのかも分からない、濃く、そして果てしなく雪が降っているのを見るのは心地よかった。雪は私たちを世界からだけでなく、家からも隠してしまった。我が家は物置から五歩の距離に建っていたのだが、うっそうとした毛に覆われた、白い覆いの向こうは、ほとんど何も見えなかった。それを通して唯一、どうにかこうにか、まるで違う世界から見るように、台所の窓が黄色く見えたくらいだ。
「監視員には嫌な奴がいてな! 」
父は均等に切り分けられた板に見惚れていた。
「一つ目のキショークってのが居てな。俺が食堂の行列に並んでいたんだが、そいつが近づいてきたんだ。『手は洗ったか? 』ってな。俺が黙っていると、『耳はどうだ?』って、耳をひっつかんできたんだ! 『ああ、ルーシ・シュバイン! 』俺を抱えて消化用の樽に全く頭から突っ込まれたんだ…… もし親父がやって来なかったら、俺はおっ死んでたよ!…… 身だしなみを良くする習慣がついたもんさ! 」
彼はドイツ人の清潔さに対する恍惚のニュアンスを持って話を結んだ。
父の興味は、ドイツと木材から、他のものへと移った。作業板の上で氷のような青っぽいガラスを、ギシギシ言わせながら切り始めたのだ。ガラスカッターが自由になると、私はこっそりガラスを取り、ざらざらした小さな歯車に触れたものだ。私たちの所にあるのが、例え人工の物だとしても、本物のダイヤモンドであるということを知るのは気持ちよかった。ただ理解できなかったのは、それが何故輝かないかという事だった。



[44] (無題)

投稿者: 徳弘 投稿日:2015年11月15日(日)20時33分23秒 61-26-221-48.rev.home.ne.jp  通報   返信・引用

今週の分じゃい!

一週間に一回更新してたら、2,3年で終わるんじゃね?
でも、誰もついてこないんじゃね?
っていうね。

1月の連休カザケいるかね?
いや、2月の方がいいのかな?

帽子と、その下からはみ出したさらさらした亜麻色の髪の房を動かして、静かに口笛を吹くか、好きな≪おお、私の小箱いっぱいに…… ≫を歌いながら、父は落ち着いた様子で板と板材を測り、ケミカルペンシルで何か記すと、ケミカルペンシルは器用に耳の裏に差し込まれ、軽く心地よい音と共に木に斧が打ち込まれ、板に鋭い鋸がおが屑の尻尾と共に突っ込まれ、滑らかに進む鉋が滑るように動いた。
私たちは、ハンマーや釘をいつでも渡せるように後ろに立ち、どれほどの居心地の良さと満足が私たちを満たしているか感じながら、父の動き全てを満喫していた。
時おり、父は何かを語り始める。それは私と弟だけに向けられたものではなく、物置小屋中に、そこに住む住人全てに向けられたものだった。
「そう、親父は名人、まさに巨匠だったんだよ! 」
彼はそう言って、うっとりし、彼と彼の父がドイツにいた頃、収容所でスウェーデンカブと腐ったキャベツの葉で作った囚人用雑炊を食べさせられていた話を始めるのだった。
「俺がそこにいた時、同郷人に聞いたんだ。『ニィちゃん、ここには女は居るかい? 』って」
かすかに悪戯っぽく父は笑った。
「俺も18歳だったからね。すると囚人用ベッドから答えが返ってきたよ。『ここで俺らと生活してみな、女のことを忘れるだけじゃねぇ、お前のズボンの中に『マシーン』があるって事も忘れちまうぜ! 』ってね」
しかし、私たちの父と、その父が考えていたことは、女性についてでも、ドイツ式ダイエットで唸っていた腹についてでも、なかった。彼らが考えていたのはタバコについて、である。
「ヘビースモーカーってのは、恐ろしいな! 」
父は、満足気にポケットからタバコを引き抜きながら、そう叫んだ。
「収容所中を歩き回って、苔を剥ぎ取って吸うんだ。苔はパチパチと燃えて火を吹いてな、親父は咳き込んで、ずっと繰り返すんだよ。『何処でならタバコが手に入るんだ? 』ってね」



[43] Re: (無題)

投稿者: 徳弘 投稿日:2015年11月15日(日)19時52分41秒 61-26-221-48.rev.home.ne.jp  通報   返信・引用 > No.42[元記事へ]

元気じゃねぇ!

仕事の奴らが、マジむかつくよ!
再雇用の奴が、無視とかしてきやがって、ブチ切れてるよ!

あと、s7にキャンセル確認の電話しなきゃいけなくて、
いやいやだけど、ロシア語使った!
そんな感じ!



[42] (無題)

投稿者: これ むら 投稿日:2015年11月10日(火)23時12分13秒 softbank126062172129.bbtec.net  通報   返信・引用

やべーです!父!!!!
ついていきたい、が、PCが不調!!
やべー!!でも最近仕事でロシア語話す機会増えて少しだけうれしい!!
ロシア人ルーズでマジきれるけど!!
そんな近況!!
徳さん、すいません、連投!!元気ですか?
そんな中、YUKIライブ行っちゃいましたよ!!新曲出しましたよ。
ってそんな報告より訳か!!!!
富山いらっしゃるのですか!!わわわ、早めに予定立てねば、来年引っ越し等で忙しくなってしまいます!!



[41] (無題)

投稿者: 徳弘 投稿日:2015年11月 8日(日)22時35分24秒 61-26-221-48.rev.home.ne.jp  通報   返信・引用

今年中に「父」の章終わらせるよ!

っていうか、みんな見てる?

来年の1月2月あたり、カザケに会いに、もっかい富山行こうかと思ってんだけど、どう思う?

それ以来、ブラシは延々と捜索されていたのだが、ほんのつかの間、それも、いつも別の場所で見つかるのだった。例えば、ペチカの上でソックスの下に隠れていたり、食器棚の上で父が隠した煙草の吸殻の隣に居たり、郵便受けの中に居たり、母の薬用が入った薬箱の中に居たり、張り出し玄関のベンチの下に居たり、等々。何時だったか、父が鋸で作った、割れやすいトンボのような建築の中には、目的の分からない切れ端、紙の小片、忘れられたドアの鍵、鶏の骨、桜の種、りんごの齧り残りや、ナットなどが住み着いた。
その後、父は仕事を母から受け取った。何ヶ月かの間、私達の家は柔らかな雪だまりの中にあるように、沈黙と平穏の中に埋もれた。もしかすると、この時が、私たちにとって、一番幸せな冬だったのかもしれない。仕事が終わってすぐ、鮮やかな黄昏の中を父は家へと急いだ。時おり父と帰ることもあった母が、夕食の準備をしている間、彼はすばやく着替え、煙草とマッチを上着に移し、凍って、まるで段がブリキで作られた様な音のする張り出し玄関の上で、防寒長靴を鋭く軋ませた。
庭の、家の向かいに、波立つような赤い瓦の屋根の付いている、雪の櫛で飾られた納屋が建っていた。納屋の向こうには手洗いがあり、その向こうには、ぼんやりと菜園が白く見えた。
父は納屋に隠れ、私と弟は、もちろん、その後を追った。納屋の中は電線の破片がぶら下がり、既にクモの巣が張り巡らされていて、昔話のような外見と共に、科学的要素があって、ランプを燃えていた。ランプは、半ば野生に戻った丸太の壁と並んだ瓦屋根の粗末な内側の下では、何か奇妙なに見えた。壁からは苔が生え、干草置き場の、板で出来た下敷と隣り合っていて、そこから、くしゃくしゃの干草がこちらを窺っていた。止まり木にいる鶏は寝ぼけて目を少し開けていた。雄鶏は一歩一歩と足を運び、見せ掛けの怒りで頭を揺らす。低い仕切り壁の向こうでは、時おり、豚たちが押し合い、ブーブーと鳴いていた。


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